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メキシコの光学

雑誌「O plus E, No. 212, 1997年7月号」 pp. 135-139より転載
著者: A. A. Cornejo-Rodriguez 博士 (INAOE光学部・教授)




10年ほど前、私は雑誌 O plus E にメキシコの光学の状況について寄稿したことがある。世界の多くの国と同様に、メキシコでもその時点から状況の進展があり、現在では、従来の分野に加えて、近代光学の分野で活動している多くのグループが誕生した。さらに、大学でも光学分野の研究・開発が重要と考えるようになり、この分野の研究所の組織・計画が進んでいる。しかし、メキシコにおいて光学を発展させる上での最大の問題点は学界と工業界との関連がほとんどなく、将来の経済的、工業的発展を促進するような国としての政策も乏しいことである。

以下に、光学分野の諸教育・研究機関で行われている基礎・応用の研究と、技術的な活動状況、さらに大学院教育について述べる。 (訳者注:教育・研究機関は略称で表す。文末にその一覧表を載せた)

光学における主要な活動は1965年頃、Prof. Daniel Malacaraの指導によって、UNAMの天文学研究所の光学グループによって始められた。2年後、2人の研究者(その一人は筆者)がこのグループに参加した。口径84cmの主鏡を持つ天体望遠鏡の設計、光学素子の製作、検査、さらにその鏡の反射面の蒸着装置の設計と運転が最初の仕事であった。1968年He-Neレーザーが作られ、天体観測用のファブリ・ペロ干渉計の製作と共に、ホログラフィーの研究も開始された。


写真1:INAOEの本館

1970年に CONACYT が設立され、メキシコ・シティー以外にもいくつかの教育・研究機関が作られた。1972年に Puebla 州 Puebla 市のTonantzintla 天文台(1942年設立)の敷地内に、INAOEが開設された。ここでは、これまで行われてきた天体観測用光学機械に対する研究に、新しい研究分野が加わり、さらに、光学分野の大学院が設置された。これはメキシコ・シティー以外に設置された最初の物理学分野の修士・博士課程であった。創立当時のINAOEにおける主要なプロジェクトの一つは、215cmの主鏡を持つ天体望遠鏡の製作であった。この望遠鏡は、現在アメリカ・アリゾナ州と境を接するソノラ州のCananeaにおけるGuillermo Haro Barraza天文台(INAOE所属)で使っている。また、ホログラフィー、画像処理(光学的およびディジタル)およびファブリーペロ干渉計についての開発も行われた。最近になって、INAOEの研究領域は、光ファイバー、フォトリフラクティブ材料(結晶およびフォトポリマー)、ソリトン、レーザーおよびマイクロキャビティー理論、医用画像処理、TalbotおよびLau効果に関する現象の研究のための液晶パネルの応用、光ICデバイス、干渉顕微鏡(Linnik型)、および回折光学関連問題などに拡張されている。写真1は、INAOEの本館の写真(訳者撮影)であって、向かって左側の建物に研究者のオフィスが並んでいる。1階が電子工学、2階が光学、3階が天文学と区分されている。この写真は、INAOEのホームページ (URL: http://www.inaoep.mx/) にも掲載されている。




2年前から、INAOEは直径50mの主鏡(主アンテナ)を持つ大型ミリ波望遠鏡(Large Millimeter Telescope:LMT)の建設を進めている。これはINAOEとアメリカ・マサチューセッツ大学との共同プロジェクトであって、右図はその望遠鏡のドームの完成予想図である。土台は直径76mの円盤状の鉄筋コンクリート製の円盤であって、そのうえに鉄骨にスチールを張ったドームが回転できるように取り付けられている。スリットは電波の障害にならないような膜で覆われ、雨が入らないようになっている。このドームはメキシコ側で設計され、アメリカ側も同意しているが、実際の建設に当たっては若干の変更もあるかも知れないとのことである。

このような研究活動を行いながら、INAOEはメキシコにおける光学の最初の研究所であったのみならず、常に指導的立場に立って、メキシコにおける光学研究の振興に努力しながら現在に至っている。



写真2: CICESE の航空写真(右下のパラボラアンテナのある建物が応用物理学研究所、光学部門はこの中にある。)


写真3: CICESE 応用物理学研究所の正面


写真4: CIO の建物全景(模型)


写真5: CIO におけるスペックル干渉縞解析の実験

INAOEの創立から2年遅れて、CICESEと呼ばれる研究センターがBaja California州(訳者注:アメリカ・カリフォルニア州の南にある細長い半島)のEnsenada市に誕生した。この研究センターでは応用物理研究所の中に光学部門を設置し、アリゾナ大学光学研究センターで学位を得たDr. Romeo MercadoがINAOEの大学院生3人を引き取って、光学の研究を開始した。最初は、この学生たちの教育を行いながら、古典的なレンズ設計と光学部品の測定検査が研究テーマであった。しかし、外国で教育を受けた新しいスタッフが加わって、ホログラフィー、結晶デバイスの製作、ホログラフィー顕微鏡、画像処理などの新しい分野の研究が始まり、また眼鏡の製造に関するパイロット・プログラムも実行された。最近になって、これまでの研究に加えて、粗面による回折、光ファイバー、リングレーザー、海面の波の処理、光ICなどの研究も始まっている。写真2はCICESEの空中写真であって、右下のパラボラアンテナのある建物が応用物理学研究所、この中に光学部門がある。写真3はその正面写真である。

1980年にProf. Daniel Malacaraが新しい光学研究センターCIOを彼の故郷Guanajuato州のLeon市に設立した。このセンターも、光学設計と検査という古典的分野でスタートしたが、設立後まもなく量子光学、ホログラフィー用ポリマー材料、CO2レーザーなどの新しい分野が加わった。メキシコの他の研究センターと同じように、現在ではCIOは光ファイバーの製造と研究、スペックルによる測定などの研究が行われ、位相モードロッキングを用いた干渉縞解析にも大きな貢献をしている。写真4はCIOの全景の模型である。(訳者注:小高い丘の斜面に建設されていて、全景の写真を撮影するのが難しかった記憶がある。)写真5はスペックル干渉縞の計算機解析の実験装置である。


これまで述べた教育・研究センターが活動を開始した頃、大学および国立研究所においても光学研究の部門やグループが作られた。UNAMの天文学研究所では光学に関する先駆的な研究を引き継いで、天文光学の他にスペックル、アクティブ・アダプティブ光学、気象光学などの研究が行われている。また、主鏡の直径が6.5mまたは8mの天体望遠鏡の建設プロジェクトも進行中である。同じUNAMにおいて、Centro de Instrumentosはレーザー偏位測定、レンズ設計、4象限分割光検知器とその応用、医学におけるレーザーの応用、ピコセコンドパルス屈折計などの研究グループを育てている。この大学の物理研究所には、以前から精密測定用の干渉計の研究グループがあり、Ensenada市にある分室は物性材料の光学的性質の研究を行っている。核物理学研究所にはラマン分光についてレベルの高い研究を進めているグループがあり、研究用の機材の製作や技術開発も行っている。材料研究所では流体の光学的測定を行っている。メキシコ・シティーから70Km離れたCuernavacaにあるUNAM所属の研究所では、光学に応用するLie群論や数学的方法の理論的研究を行っている。

メキシコ・シティーのIPNでは、物理学科には回折の理論的研究および光ファイバーの研究グループがある。また、UAM-Iztapalapaの物理学科には、レンズ設計や、レーザーを用いた絵画の傷の除去、修復などの研究グループがある。

UNISONには二つの研究グループ、すなわち光学設計への最適化方法とレーザー理論の研究を行っているグループ(物理学科)と、主に干渉測定と薄膜の研究を行っているグループ(物理研究センター)がある。UASLPは最近IICOを設立し、数年前から材料の分光学的研究を始めていたが、最近急速に光学的画像処理、光ファイバーおよびカオス理論へのアプローチを進めている。Puebla大学では、物理学科で数年来光学研究グループの育成を行ってきたが、現在ではレンズ設計、光学テスト、ヘテロダイン干渉、量子光学、画像処理、光ファイバーなどの研究をカバーしている。

1972年のINAOEにおける最初の大学院教育に続いて、現在ではCICESE(1975)、CIO(1984)、UAP(1995)およびUASLP(1996)が同様な教育を始めた。10年ほど前から、オプトエレクトロニクスの分野が加わり、すべての大学院ではこれに関する講義が行われ、中にはCICESEのように光学とオプトエレクトロニクスの課程を分けた所もある。1986年ころ、CIO, CICESE, UNISON およびINAOEで共通のPRONAPOEと呼ばれる大学院コースを作るという国家プログラムが政府の承認を得たが実現には至らず、現在ではそれぞれの大学院が独自のコースを運営するようになっている。ただし、上記の大学院間では学生の交流が行われている。

1993年以来、メキシコにおける修士および博士の学位をもつ大学院修了者の数が増加し、毎年新修士25名、新博士10名が誕生するようになった。また各教育・研究センターにおけるスタッフの数も増加し、現在では光学の博士研究者は100名を超えるようになった。政府の方針により、1992年以来大学と研究所のスタッフはすべて博士の学位を持つことが義務づけられている。

INAOEでは1995年に名誉博士(Doctor Honoris Causa, DHC)の制度が設けられ、毎年天文学、光学、電子工学の分野で一人ずつこの学位を授与している。光学分野のDHCは1995年度の第1回は辻内教授(訳者)、昨年度の第2回はProf. Malacaraであった。

光学の学会として、メキシコ光学会(Academia Mexicana de Optica、AMO)が1986年に設立され、現在会員は約180名、毎年メキシコ物理学会と共同で講演会を開催し、論文は物理学会の機関誌(Revista Mexicana de Fisica)に掲載するようにしている。また、AMO はアメリカ光学会(Optical Society of America, OSA)と相互協定を結び、会員の便宜をはかっている。 (訳者注:最近、応用物理学会もOSAと相互協定を締結した。)

国際関連事項では、1969年以来ICO(International Commission for Optics)に加入する準備を始め、1974年に加入が実現した。メキシコがICOのメンバーとなって以来、メキシコの研究者のICO国際会議への参加は途絶えることなく続いているが、メキシコ国内でそのような国際会議を開催するという努力も重ねられた。1980年、Optics in Four Dimensionsというtopical meetingが、Ensenada市のCICESEで開催された。1967年以来、メキシコの研究者でOSAのメンバーとなり、年会に参加する人が増えてきた。SPIEについても同様で、毎年アメリカ・サンディエゴ市で開催される講演会に出席する人が増えている。1999年には、アメリカ・サンフランシスコ市で開催される第18回ICO総会(ICO-18)に併せて、ICO satellite meetingがメキシコ国内のどこかで開催される予定である。AMOの会長(現在はProf. Malacara)がICOのメキシコ国内委員会の委員長を兼ねることが慣例となっている。

スペイン語を話す国々との関連において、1993年にラテンアメリカの幾つかの国々とスペインが共同で"Primera Conferencia Iberoamericana de Optica"という国際会議をスペインのバロセロナで開催した。この会議の2回目は1995年にメキシコのGuanajuato州のCIOで開催されたが、その後同じ年にキューバのハバナでも同じような会議が開催された。キューバの会議では、1998年の次の会議は一つの会議として、二つに分割しないで開催することを決議した。相談の結果、コロンビアがその会議の開催を引き受け、関連する国々のすべての研究者が招待されている。

この文章を終わるに当たり、再びメキシコの光学の問題に立ち戻りたい。この分野は順調に発展を続けていると言えるが、解決すべき二つの問題が残っている。それは a)メキシコの大学院修了者に新しい仕事を与えること、b)工業的、技術的問題を解決するために学界と工業界とのさらに密接な関係を作ることである。工業界では新製品や新技術の開発にあまり興味を持っていないため、大学院修了者の受け入れに無関心であり、彼らの就職先を学界以外に探すことは難しい。学界と工業界に協力関係ができれば、最終的にはメキシコの経済の発展につながり、研究環境の改善に役立つが、これが実現できなければ、光学分野で活躍する研究グループを維持することは困難となるであろう。メキシコの教育・研究機関のスタッフメンバーには、メキシコで学位をとった人々と共に、アメリカ、イギリス、フランス、ドイツ、スペイン、ロシア、日本などで学位を取得して来た人々も多い。したがって、新しいスタッフを採用するときには、メキシコの学校を卒業した人々と、外国で勉強してきた人々とが対象となるが、第3のグループとして外国から移住して来た研究者も含まれている。これは特にロシアからが多く、イギリスやアメリカからは少ない。最後に、INAOE、CICESE、IICO、UAPのような教育・研究センターでは、光学と電子工学の間の学際的研究テーマについて熱心に取り組んでいることを特筆したい。
機会があれば、是非メキシコやラテンアメリカの光学教育・研究センターを訪問し、地域的な会合にも出席して頂きたい。きっと歓迎されることと思う。


略語一覧


CONACYT : Consejo Nacional de Ciencia y Technologia, Mexico City
INAOE : Instituto Nacional de Astrofisica, Optica y Electronica, Puebla, Puebla
CICESE : Centro de Investigacion Cientifica y Estudios Superiores de Ensenada, Baja California
CIO : Centro de Investigaciones en Optica, Leon, Guanajuato
UNAM : Universidad Nacional Autonoma de Mexico, Mexico City
IPN : Instituto Politecnico Nacional, Mexico City
UAM : Universidad Autonoma Metropolitana, Mexico City
UASLP : Universidad Autonoma de San Luis Potosi, San Luis Potosi
UAP : Universidad Autonoma de Puebla, Puebla
UNISON : Universidad de Sonora, Hermosillo, Sonora


筆者紹介

Dr. Anselmo Alejandro Cornejo Rodriguez
アンセルモ・アレハンドロ・コルネホ・ロドリゲス博士

1940年メキシコ市生まれ。現在、 INAOE 光学部教授。1964年、国立メキシコ大学理学部を卒業。1968年、アメリカ・ロチェスター大学にて理学修士課程を修了。1982年、東京工業大学にて工学博士を取得。1967年国立メキシコ大学天文学研究所の光学グループに参加、主として放物面鏡の表面形状の測定の研究を担当、1972年 INAOE の創立と同時に光学部門に勤務、放物面鏡を始め、非球面の形状測定の研究を行い、変形 Ronchi 格子による非球面測定法の開発で知られている。現在、 光学部門 の教授であるが、1992年8月から1997年5月まで光学部長を務めた。その間、1988年アメリカ光学会 (OSA)Fellow 会員となり、1990年〜92年にはメキシコ物理学会の会長をつとめた。また、1981年10月から6ヶ月間、東京工業大学客員研究員として、工学部像情報工学研究施設に滞在し、“非球面光学面の定量的測定に関する研究”で工学博士の学位を取得した。専門は光学、特に光学器械、光学計測であり専門分野に関する論文73編を発表している。


(訳:辻内順平)



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